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第3報「大国外資で過去忘却の道を突き進む、カンボジア・プノンペンの逞しき喧騒(前編)」
投稿日 2017.11.30
目次
留まることを知らないカンボジアの中国依存
今から約四半世紀前の1993年、23年間に渡って繰り広げられた内戦が終結したカンボジア。
以降は東南アジアの新たなる立憲君主国として、海外資本を基に着実に復興を続けている。
「GIA調査 第3報」は、このカンボジアの首都プノンペンの「今」を切り取ってお届けする。
ここ数年のカンボジア、特に首都プノンペンの経済成長、都市化のスピードは凄まじい。
中心部には中層、高層ビルも珍しくなく、明らかに外国人向けの商業施設や飲食店が多い。
2008年に大規模な経済特区も出来上がったプノンペンに、もはや長かった内戦の傷跡を見付けることは難しい。
カンボジアの経済成長は先進諸国の投資合戦の賜物であり、とりわけ中国が莫大な投資を続けている。
2015年度までの累積海外投資額は中国がダントツの第1位。
2015年度単年でも2億4100万ドル、各国別シェア1位の30.7%を占め、対して日本は3,900万ドルで6分の1以下である。
しかしながら、筆者のような短期滞在者が中国資本の威力を身近に感じるかというと、そうでもない。
プノンペンは観光都市ではなく、欧米人や日本人旅行者の移動範囲はせいぜいオリンピック・スタジアムから東南北約数キロ以内。
彼らが逗留しているエリアは、オルセーマーケット南一帯、ゴールデンソリアモール周辺、リバーサイドであり、特に欧米人の熟年、初老層が目立ち、中国人はあまり見かけない。
実は中国人は、トンレサップ川とメコン川の合流地点から南にあるダイヤモンド・アイランド、空港周辺一帯に一大中華勢力街を形成している。
(この辺のレポートは後編に掲載予定)
今のところは、外国人同士の平和な棲み分けが成立している事がプノンペンの特徴かもしれない。
見上げれば、原色旅社 乱立状態
欧米人や日本人用エリアの悩みの種は、建設ラッシュによる騒音である。
何処に宿を変えようとも、建築現場が発する騒音からは逃れられないのだ。
実はこの騒音こそ、中国資本進出のどデカイ足音である。
新しく完成、もしくは建築中の建物の大半はホテル、ゲストハウスであり、外壁は様々な原色で塗りつぶされ、看板には「旅社」「客桟」の表記が目立つ。
危機感をつのらせたのか、既存のゲストハウスもリノベーションに積極的になっているのでなおさら騒々しい!
やがては様々な商業娯楽施設も建設されていき、近い将来は中国人が大量に流れ込んで来るに違いない。
ビールやタバコは安いし、現地飯で我慢すれば一食2~3ドル程度で済むプノンペンは、日本人の長期沈没者も少なくない。
沈没者締め出しの様な政策が加速しているタイからの“避難組”も流れ込んできている。
しかし彼らが安穏と生活できる日も長くはないだろう。
中国資本の功罪
中国がカンボジアに巨額の投資を続ける最大の理由は、東シナ海の制海権を巡ってベトナムと犬猿状態にある為に、東南アジアへの経済回廊を確立すべくカンボジアを抱き込む必要があるからだろう。
ミャンマーとの石油パイプラインの設置と同じ理由である。
その為にも中国は、カンボジアへ無担保無利子同然で金を貸し付け、返済されなければ利権を頂いてしまえ!という事に違いないと、中国経済に詳しい在住者たちは口をそろえて言う。
カンボジアにとっては、中国に「軒先を貸して母屋をとられる」状況と思えるのだが、しかし中国の莫大な資本投下に対して、カンボジア政府は100%諸手を挙げて歓迎しているわけでもなさそうだ。
中国企業は海外資本投下とともに民族大移動を行い、人的労働力も自分たちで賄うのだ。
これではカンボジア人の雇用に繋がらない。
カンボジア一般大衆のGDPアップ率は上昇しているものの、プノンペンの都市化のスピードとは一致していないのだ。
これは強引な引用だが、現在欧米人/日本人旅行者滞在エリアでは「ひったくり事件」が頻発しており、筆者も既に三度未遂をくらった。
中国資本を主体として都市化が加速化するプノンペンの、末端の呻き声を聞かされているようでもある。
フン・セン現首相は、ミスター狸
中国ベッタリに見えるカンボジアのフン・セン首相だが、実は結構狡猾でもあるようだ。
中国の大掛かりな東南アジア進出にアメリカがいい顔をしない事を見越して、トランプ米大統領にもカンボジアへの投資をしきりに働きかけているという。
元々フン・セン首相は、トランプ氏の新大統領就任に際して公的な歓迎発言を残している。
それはトランプ大統領の大資本家、大経営者としてのキャリア、また世界各地の歴史問題や民族闘争問題への割とドライなスタンスに対するフン・セン首相の評価の証でもある。
勿論、ベトナム戦争で赤っ恥をかいたアメリカに、歴史的にベトナムと仲の悪いカンボジアにおいて、東南アジアでの名誉回復の機会を与えるという算段でもあるらしい。
いずれにせよ、長過ぎた内戦状態とポルポトの大領虐殺による暗黒時代を、経済復興のスピードによって忘却の彼方へ葬り去るために、中国に代わる「経済成長ロケット第二弾」としてアメリカの投資を期待しているのかもしれない。
日本企業は「Not Action Talking Only(NATO)」?!
一方日本のカンボジアへの投資状況は、2016年度単年ではカンボジアの対内直接投資の評価額で日本が初めて1位になったというネット記事を先日目にしたばかり。(正確な数字を把握していないが)
プノンペンの大規模な経済特区においては、稼働している66社のうち日系企業が37社を占めており(2014年2月時点)、現在でも新規参入する日本企業は増え続けている。
日本企業は現地従業員を雇用して、カンボジア人へ様々な技術の伝授と浸透を試みているのだ。
日本企業の技術提供において、ひとつ誇らしい情報を入手した。
プノンペンの上下水道はともに旧くて細く、既に耐久限度に達しているらしいが、日本製の「逆浸透圧濾過装置」を新型の上水道に導入することで、今後プノンペンの新しい建築物の水道水が飲み水として生まれ変わるらしい。
こうした途上国の根底の改善に着手する日本企業や日本人は、カンボジア人の間でも高い評価を受けているようだ。
その一方、日本企業は「Not Action Talking Only(NATO)」と陰口も叩かれているらしい。
これは過日訪れたミャンマー・ヤンゴンとプノンペンで、いずれも長らく外国企業で働いている日本人の方から聞いた奇しくも同じ言葉だった。
「NATO」とは「指示は出すが、自らは動かない」ということ。
「責任者がコロコロ代わり、現場は混乱するばかり」「リスクを恐れるばかり、決断が遅い」というニュアンスもあるらしい。
更に「現地人と一緒に汗水たらしても、日本人はそれで満足してしまい、現地人への労苦相応の報酬をケチル」という。
「日本人が考えているほど、現地人はお人よしではない」ということではないだろうか。
現地人雇用や技術提供はするが、自分の任期期間中だけそつなくこなす傾向がある日本、民族大移動式で収益を半永久的に独占しようとする中国、そして中国牽制を目論む?アメリカ。
カンボジア経済成長ロケット第二弾を着火させるのは、果たして?
【追伸】
日本の大手コンビニが、プノンペンのコンビニ・チェーン店「Smile」を買収、全面進出してくる噂が流れ、在住日本人の方々は心待ちにされていたそうだ。
しかしながら、今のところその動きは表面化していない。
是非真相を調査して欲しいとの要望を受けてしまった!
以上。
【プロフィール】
神中(ジン・アタル)19〇〇年東京都生まれのフリーライター。
「金ができたら旅、金が無くなれば仕事」をひたすら繰り返す放浪者。
旅のモットーは「旅は独り旅に限る」「酒とタバコが美味ければ何処にでも行く」。
お気に入りの都市は、ブダべスト(ハンガリー)、ハンブルク(ドイツ)、ドトスサントス(メキシコ)&バンコク。
一応日本とアセアン諸国でメディア編集者歴20年あり。憧れの作家はイアン・フレミング(映画007シリーズの原作者)。
3 件のコメント
高校生です。ジンさんのコラム毎回楽しみにしてます。
ありがとうございます!
ジン氏に伝えておきます!
フン・セン首相の任期中に、安い自国の土地をカジノエリアと称して利権を売り、中国を中心とした投資で金を集めようと躍起になっていますね。島部とか遺跡の近くとか。日本人で投資する馬鹿はいないと思いますが、二束三文の土地ですから気を付けてくださいよ