【緊急特別レポート】号外「ラオス・サッカー界の英雄は心優しき日本人ストライカー。 『ラオスのカズ』が、自らの半生とラオスの魅力を語る!」

投稿日 2018.01.31

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

皆さんは、インドシナ半島の内陸国ラオスにおいて、「カズ」と呼ばれている日本人の英雄的ストライカーが大活躍されている事をご存知だろうか。
ラオス・プレミア・リーグの強豪ラオ・トヨタFCに所属しながら4年間で3度の得点王に輝き、昨年は同リーグで初の通算100得点を記録した本間和生選手である。

筆者は本年度年初より、新しい取材地ラオスの首都ビエンチャンを訪れていたが、「ラオスのカズ」とお酒や食事をご一緒させて頂くという幸運過ぎる機会に恵まれた。
この度は「ラオスのカズ」が語る、一流アスリートから見たラオスやビエンチャンの魅力を皆様にお届けしたい!

以下、本間和生選手へ親愛を込めて「カズさん」と表記させて頂きます。
また当報告書内で御覧頂ける写真は、すべて本間選手ご自身から提供され、掲載許可を頂いております。

本間和生選手プロフィール

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

1980年に3月17日神奈川県横浜市生まれ(現37歳)。
大宮東高校卒業後、大宮東高校を卒業後、リエゾン草津(現・ザスパクサツ群馬)などでプレーし、22歳で渡欧。
2002年、セルビア1部リーグ(セルビア・モンテネグロ2部)のFKマチュヴァ・シャバツに移籍。
セルビアで2年半プレーした後、2004年にハンガリーのクラブに移籍。
以後ハンガリーで9年間プレーした後、2014年から発足間もないラオス・プレミア・リーグのラオ・トヨタFCへ。
在籍4年間で2度のリーグ優勝に貢献し、3度の得点王を獲得。

交錯する期待と不安

ビエンチャン入り直後、「ラオスのカズ」の評判はすぐに耳に入った。
「会えるかもしれない!」
スポーツ好きの筆者の胸は高鳴ったが、同時に不安もよぎる。
さっそく上記プロフィールをネットで確認したが、ストライカー一筋17年である。
ストライカーとは点取り屋であり、「俺が、俺が」の超エゴイストであっても当然だ。
しかも一貫して海外のクラブチームでキャリアを積んできただけに、凄まじく剛健な精神力の持ち主に違いない。
また優秀なアスリートは、競技場で肉体と精神を極限まで使って自己表現をするので、オフの時間では寡黙な方も多いと聞く。
お会い出来たとしても、果たして凡人の質問に対応して頂けるだろうか?

やがて外国人在住者に大人気であるメコン川沿いのバー「ラオディ・バー」にて、マスターの西岡氏のお取り計らいによりカズさんとの対面が実現!
更に後日、カズさん行きつけのラオス料理店で約3時間にわたってお話を伺うことが出来た。

日本人らしくない?!プレーヤー

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

目の前にいるカズさんは、明らかに雰囲気が常人とは異質だ。
自己紹介、着席、乾杯、食事の所作にがさつさ、いびつさが無い。
長年全身をソリッドに鍛え続けてきたアスリートとは、さりげない身のこなしですら、こんなにもナチュラルでクールなのかと見とれてしまった。
笑みを絶やさずゆっくりとした口調もエレガントだ。

話が進むにつれて、カズさんは達人、鉄人のレベルを超越して即身成仏の境地に入った者の様な“ふわりとした”オーラに包まれてきた。
筆者はカズさんのプレイを拝観したことはないが、恐らくピッチを駆け巡っている時も、同じ様なオーラをまとっているのではないだろうか。

「そう言えばある若い日本人女性から、“スゴイプレーはしないけど、気が付いたらヒョイッと点を取ってますね”と言われました」
とカズさんは笑った。
この日本人女性のカズさん評、分かるような気がする!

ほんの一時期ラオ・トヨタFCでカズさんと一緒にプレイした伊藤壇選手のカズさん評もご紹介しておこう。

「海外でも、日本人のプレーを見ると『日本人ぽいな』とすぐにわかるんですが、本間選手のプレーはそれを全く感じないんですよね」
(Football Channelより抜粋)

「日本人プレイヤーは概してテクニカルでスマートだけど、僕はそうじゃないってことでしょうかね」とカズさんは自分自身を茶化していたが、筆者の解釈では、所属チームのカラーと戦術にカメレオンの様に同化できるということではないだろうか。
そして“その時が来たら”忽然と現れてヒョイッとキメル!
サイレント・ストライカー(静かなる点取り屋)という表現が似合うのかもしれない!

目の前の状況を受け入れること

プロ生活17年間で、海外の11チームで活躍してきたカズさん。
ざっくり言えば、11人の監督と11の戦術、さらに11の風土と11のサポーター気質の中でゴールを決め続けてきたのだ。
目まぐるしく変わってきたサッカー環境やチーム状況の中で、常に結果を残せてきた秘訣は特に何もないという。
「多分、目の前の状況を受け入れやすい性格が、色んなフォーマットにフィットした理由かもしれないですね」と。

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

ハンガリー時代のカズさん(その1)

カズさんはラオス人プレイヤーに対して、「ポテンシャルが高い」と評している。
これは身体のバネが驚くほど強いということらしい。
反対にウイークポイントはフィジカル・コンタクトに強くなく、また監督に対する単なる好き嫌いがプレーに反映されてしまうという。
「これはプロフェッショナルとは言えないですよね」とカズさんは苦笑いしていたが、それがラオス・リーグにおける現実であり、カズさんがアダプトしなければならない状況なのだ。
「僕は才能がないから、置かれた状況に対応し続けていくしかないじゃないですか」とあくまでも控え目に自己分析するカズさんだった。

ギブアンドテイク

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

2017年度ラオス・プレミア・リーグを制覇した、カズさん所属のラオ・トヨタFC。

ストライカーの絶対条件は「ゴール嗅覚」と言われている。
この点に関してのカズさんの答えは明確だった。
「自分は足も速くないし、身体も小さい(175センチ)から、ヨーロッパ時代からゴール嗅覚は必死に磨き続けてきました」。

しかし、必ずしも「ゴール臭感知、即シュート」ではないと言う。

自分よりも良いポジションに味方の選手が入った時は、迷うことなくアシストにもまわるというのだ。
1点でも多く得点を記録したいのが単年契約を続ける外国人ストライカーの性(さが)と思っていたが、これもまた素人観点ながら意外であった。
このアクションの真意については、「ギブアンドテイクの精神」と解説して下さった。

仲間にゴールという「華」を譲渡する気持ちがあれば、仲間も必ずその気持ちを返してくれるというのだ。

「ギブアンドテイクの精神」はセルビア/ハンガリー時代に培ったそうだが、ラオ・トヨタFCに移籍した当初はチームメイトから驚かれたものの、彼らの気質にも合致したのではないかという。
仲間を尊重して、彼らにも良い思いをしてもらうという、いわばカズさんのチームワーク養成戦術であり、ラオ・トヨタFCがリーグ屈指の強豪球団(在籍4年間で優勝2回、2位2回)になった要因であることは間違いないだろう。

ラオス・リーグ全体はまだまだ発展途上レベルであり、ラオス人選手たちも「先制点を取られるとダメ」「ミスをすると立ち直れない」「均衡状態で歯を食いしばる事が出来ない」など、メンタルな部分での課題も多いそうだ。
しかしチーム力が上がった現在では、チームメイトの意識改革も進んできているに違いない。

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

ハンガリー時代のカズさん(その2)

余談ではあるが、カズさんがラオ・トヨタFCに移籍した2014年の前年まで、ラオス・ナショナルチームの監督は木村幸吉氏(元横浜Fマリノス監督)だった。
ラオス人の気質や国民性を重視した上での指導を行っていたらしく、木村氏は今でもラオスでは「名監督」と呼ばれているそうだ。
我流や自論を押し通すのではなく、カズさんや木村氏が実践した現地のスタイルをまず尊重して歩み寄る姿勢こそ、外地で成功して評価を頂くことの基本であることを、東南アジアで生きる我々はあらためて学ぶべきであろう。

ラオスは食の天国

カズさんが案内して下さって食事を共にした場所は、典型的なラオス料理の大衆食堂「Maneevone」。
オーダーした料理は、鶏もも肉焼き、豚肉焼き、青パパイヤのサラダ、そしてもち米。
週末以外は禁酒されているということで、平日だったこの日はコーラで乾杯。

ラオスの魅力は、食べ物の種類が多く、味付けがタイ料理ほど濃くないので食べやすいという。
セルビアやハンガリーでは、料理の種類が多くなく、味付けも似たり寄ったりで食生活に苦労していただけに、
食べることが最大の楽しみ(趣味)であり、特に野菜の積極的な摂取を心掛けているというカズさんにとって「ラオスは天国」らしい!

かつてジュビロ磐田に在籍していたブラジル人の強面ディフェンダー、ドゥンガ選手の「競技人生を2年延ばしたければ、ブロッコリーを食べろ」なる談話を耳にしてからは、家の冷蔵庫にブロッコリーを欠かしたことはなく、現在ではラオス産ブロッコリーがカズさんの食生活を支える食材のひとつになっている。
アスリートとして肉体の機能低下が危惧される年齢になると、食事の内容は最重要課題になるが、その点においてラオスに来たことはカズさんにとって好都合だったようだ。

お酒も何でもイケルくちであり、最初にお会いした「ラオディ・バー」では、ご当地産の高級ラム酒「ラオディ」をストレートでクイクイと。(笑)
メコン川から吹いてくる優しい夜風を受けながらお酒が飲める「ラオディ・バー」は、現地在住の外国人たちの“憩いの場所”として夜毎賑わっており、カズさんにとってもオアシスのようだ。
ラオスの英雄として偉ぶることもなく、普通の日本人在住者としてリラックスしながらラオディをたしなむ姿は男からみても魅力的だ。

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

(写真左)ラオス料理店Maneevoneにて。(テーブルに並ぶ料理は上記参照)
(写真右)ラオディ・バーにて。お気に入りの高級ラム酒ラオディとともに。

ラオスとのユニークな“信頼関係”

自慢話、苦労話を一切しない謙虚なカズさんに、筆者の浅はかなアスリート観は音を立てて崩れていったが、ぽつりと語った心の本音がまた印象的だった。

「常に崖っぷちで爪先立ちしている危機感があります」。

これからも点を取り続けられるのか。来年の契約更新はあるのか。身体機能は低下していないか。
もうすぐ38歳という年齢が及ぼすプレッシャーだろうが、幸い身体機能とストライカーとしてのモチベーションの低下は感じていないという。
「それはラオスのお国柄が関係していますか?」と少々無謀な質問をしてしまったが、「それもあるかもしれないですね」と!

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

ラオ・トヨタFCのサポーター

セルビアやハンガリーではサッカー選手の地位が高いので、外出時の服装や振る舞いにとても気を使ったらしい。
またサッカー自体も、現地の歴史や文化が反映された「重たい格式」の様な規律性があったという。
街に出ても重厚な石造建築物ばかりであり、常に得体の知れない“重さ”に縛られていたが、「ラオスは、全てが“ゆるい”ので助かっているんでしょう」と分析してくれた。

我々凡人はアセアン諸国の“ゆるさ”に甘えがちだが、点取り屋としての使命感、1年でも長くプレーしたいという願望が衰えないカズさんだけに、

ラオスの“ゆるさ”まで味方につけたのだ!

“ゆるさ”とアスリート・スピリッツとは相容れないと思えるが、これはカズさんのラオスへの限りない優しさがもたらした稀有な融合現象かもしれない。

1月末からはAFCカップ・プレーオフ戦の為のカンボジアへ遠征があり、また2月中旬からはラオス・リーグ戦がスタートする。
心身が極限の緊張状態を迎えようとしている時期にもかかわらず、スポーツ専門ライターではない筆者の取材を承諾して下さり、リラックスした態度で接して下さったカズさん。
是非とも近い内にピッチにおける雄姿を拝観したいし、ラオス・サッカー界の英雄としての更なるご活躍を期待したい。
この「GIA号外!」を読んで頂いた方の中から、一人でも多くカズさんにエールを送って頂けたら、筆者としてもこの上ない幸せであります!

なお、カズさんとの出会いの機会を快くセッティングして下さった「ラオディ・バー」の西岡マスターにも、心から感謝したい。
この場をお借りして御礼を申し上げます。

以上

【速報】
1月29日カンボジア・プノンペンのオリンピック・スタジアムで行われたAFCカップにおいて、カンボジア・クラブチーム代表「ボーウイング・ケット・ラバーフィールド」とラオス代表「ラオ・トヨタFC」のプレーオフ第1戦は、二度にわたるカズさんの同点ゴール(30分、86分)によって3-3の引き分け。
2月2日、舞台をラオス・ビエンチャンのニュー・ラオス・ナショナル・スタジアムに移して第2戦が行われる。

ラオス-サッカー-本間和生-カズ

【筆者プロフィール】
神中(ジン・アタル)19〇〇年東京都生まれのフリーライター。
「金ができたら旅、金が無くなれば仕事」をひたすら繰り返す渡世人。
旅のモットーは「旅は独り旅に限る」「酒とタバコが美味ければ何処にでも行く」。
お気に入りの都市は、ブダペスト(ハンガリー)、ハンブルク(ドイツ)、ドトスサントス(メキシコ)&バンコク。
日本とアセアン諸国でメディア編集者歴25年。
憧れの作家はイアン・フレミング(映画007シリーズの原作者)、レイモンド・チャンドラー。

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