【第一次総括レポート】「アセアンについて、私が知っている二、三の事柄」

投稿日 2018.05.31

GIA アセアン第一次総括レポート

約10ヶ月に及ぶアセアン取材/周遊もひと段落した先月、久しぶりにGダイ本部よりバンコク帰還指令が下った。
「ここらで一度、総括レポートをやってほしい」との要請だ。
バンコクおよびアジアへ向かう日本人旅行者の年齢層はどんどん下がっており、Gダイの読者層も若い方、旅の初心者の方が増えているので、アセアン広域の魅力をまとめてざっくりと紹介してほしいとの事である。

確かに、LCCの普及により「隣の県に遊びに行く」感覚でひょいと飛行機に乗ってアセアン諸国へやって来る若者が増えた。
中には、下調べもせず、パスポートとスマホと「〇〇の歩き方」だけを持ってやって来る方も多いので、「アセアン旅行トラブル集」の方がすぐにお役に立てそうだが、それでは彼らのやる気に水を差すことにもなってしまう。
ここはひとつ、若年旅行者の逞しさを敬いながら、本部の指令通りにやってみたい。

ホーチミンのカフェでランチ

ホーチミンのカフェ・ブレイクとビエンチャンのメコン川沿いのランチタイム。至福のひととき。

「バックパッカー的視点で見たアセアン7都市快適度比較表」

まずはアセアン7ヶ国の大都市を20項目に分けて「5段階評価」をしてみた。
あくまでもバックパッカー的格安旅行をする者の視点と、筆者の独断と個人的嗜好によるもの。
項目によっては「評価」というよりも「好き嫌い」が基準になっているので悪しからず。
また各都市の規模や歴史的背景はそれぞれ異なり、同列にて評価すること自体が公平ではないことは重々承知の上なので、どうかご容赦のほどを。

アセアン快適度比較表

5=問題なし 4=まあ満足 3=普通 2=厳しい 1=厳し過ぎ

文明、文化性について

クアラルンプールのペトロナス・ツイン・タワー

クアラルンプールのシンボル、ペトロナス・ツイン・タワー。

治安の良さ

割と安心して滞在出来るのは、バンコク、ビエンチャン、シンガポール。
プノンペンが低評価だが、これはバイクに乗ったひったくり犯が急増している為。
筆者も3回未遂をくらい、周囲でも被害者が実に多かった。
夜間だけではなく、白昼堂々とヤツラはやって来るので要注意。
長距離バス降車直後、横断歩道の信号待ち、ホテルから出た時、乗っているバイクタクシーの一時停車中等、実行犯は旅行者の警戒心が弱まる瞬間を心得ているようだ。

証明書

知人がひったくりに遭った後に作成した、日本の保険会社で保証を受ける場合に必要になる(らしい)証明書と、プノンペンの警察署で発行された被害証明書。

街の清潔度

クアラルンプールとシンガポールの都市開発レベルはアセアン内最高レベル。
特にシンガポールは都市規模が小さいので、隅々まで無駄なく計算され尽くした都市構造である。
舗装された道路は、まるでモップがけでもしているような清潔さだ。
ただし、アセアン独特のゆるさを愛して彷徨い続ける貧乏旅行者の中には、シンガポールの息が詰まりそうな「モデル都市」さながらの様相に、「ゴジラにでもなって破壊したくなる」衝動に駆られる方もいるかもしれない?!

プノンペンは初めて訪れた20年前に比べれば格段に進歩しているが、一歩裏通りに入るとまだまだ眉を潜めたくなる場所が多々あり。

英語通用度

筆者の旅行者レベルの英会話力が基準(笑)
国際空港や宿泊所等、海外からの旅行者が集まる場所は対象外。

下手くそ現地語通用度

覚えたての現地語を現地人が理解してくれるか、否か。
ベトナム語は声調が複雑であり、なんちゃってレベルではほぼ理解してもらえない。

バンコク民衆の多くは、外国人慣れしている為か、こちらの言わんとする意図を推察してくれるので助かる!
ビエンチャンでは、タイ語が通じる!
シンガポールは英語が公用語なので便利だが、お相手が早口の方が多くて返答が聞き取れない場合が多い。

もっとも最近は、翻訳アプリなるものが浸透しているので、現地人とのやりとりの苦労は軽減されてきたものの、それでは会話しているとはいえないが・・・。

移動快適度

鉄道、バス、タクシー、バイクタクシー、乗り合いトラックまで含めた評価。
特にクアラルンプールが素晴らしい。
市内の数路線を循環するバスは無料であり、鉄道路線網もアセアン内ではもっとも充実している。

バス路線網ではバンコクの充実度も高いが、一日中渋滞気味の路線も多々あるので、快適度はイマイチ。
今後BTS(高架鉄道)やMRT(地下鉄)の路線拡張が進めば状況は変わるだろう。

クアラルンプールのバス

クアラルンプール市内中心地を巡回している無料バスと路線図

親日度

概してアセアン各国において親日度は高い。
これは太平洋戦争後の焼け野原状態から日本を経済大国に成長させ、発展途上国の開発にも尽力した、日本人諸先輩方のお陰である!
ただし、アセアン各国の民衆が日本人に対して純然たる憧憬感を抱いているかというとハナシは別なので、あまりいい気にならないように(笑)
かつて日本人が「昭和元禄」と呼ばれて欧米志向が強かったことと同様に、アセアン人の心の根底には日本人よりも欧米人への憧れが強いのだ。
タイ以外は欧米列強国の植民地だった国ばかりなので、欧米文化が庶民文化の中に色濃く反映されていることも一因である。

カンボジアの人々

カンボジアの人々

物価について

アセアン諸国全体で物価の上昇率は上がっており、もはや「日本の1/3、1/4の価格で楽しめる」時代は完全に終わっているので要注意。

宿泊代

いまだに各地で一泊約550円(5ドル)程度の宿は存在するものの、衛生状態、周囲の治安、セキュリティを考えるとオススメ出来ない。
格安旅行の鉄則は「自分の身は自分で守る」。
その為には、シングル・ルームならば最低約1,650円(15ドル)が必要な時代になってきた。

ただし、ドミトリーならば、最近は約1,100円(10ドル)で快適なベッドが確保できる宿が増えてきている。
唯一プノンペンならば、約1,100円(10ドル)で都市部中心においても快適なシングル・ルームを提供してくれる宿がある。

プノンペンの安宿「キャピトル」

プノンペンの代表的安宿「キャピトル」と室内

ビール代、タバコ代

ビールやタバコの嗜好品をたしなむ方にとっては、ホーチミン、プノンペン、ヤンゴンは大バンザイ!
ただしビール以外のアルコール飲料となると、安い国産酒は好き嫌いがはっきり分かれ、また輸入ウイスキーも高価なので、お酒好きの方はひたすらビールで押し通すしかないというオチがある!?
最近の若い方は嗜好品嫌いの方が多いそうなので、嗜好品価格はあまり関係ないかもしれないが。

ちなみに、ヤンゴンで頂いた国産ウイスキー「Grand Royal」の青ラベルと国産そば焼酎、ホーチミンでの米焼酎「ネップモイ」は安くてお味もそこそこイケル。
またビエンチャンでは、日本人製造の高級ラム酒「ラオディ」が抜群に美味しい。ご参考までに。

第6報「ラオスに美味しい高級ラム酒があった!『ラオディ』よ、今こそ雄々しく飛翔せよ!!」

ミャンマーのビールとタバコ

左写真~ミャンマーの国民的ビール「ミャンマー・ビール」
右写真~ミャンマー煙草「レッドルビー」。雑貨店や市場で小銭のお釣りが無い場合、代わりにタバコ3~4本が返って来る! 

生活雑貨代、お土産代

これは上記表の項目には挙げていないが、一応簡単に説明しておこう。
どの都市でも、大きな市場内、スーパー内をくまなく探せば、大概の物は入手出来るが、「100円均一ショップ」に慣れた日本人が果たして安いと感じるかどうかは疑問。
お土産代は、要は本人の交渉力次第。
ちなみにホーチミンでは、最近FIX PRICE(定価)の看板が目に付くようになってきたので、交渉が必要なくなってきているものの、その分値段は高めなので要確認。

ぼったくり無し度

悪名高きベトナムのぼったくり(外国人料金)は、以前ほど酷くはなくなったが現在でも存在する。
まあ、同じ商品を扱う店(露店)は多々あるので、衝動買いを控え、広域で各店をチェックするのもホーチミン観光のひとつと割り切ろう。

相性について

現地人との相性

これは人それぞれのキャラクターや語学力が大きく関係してくるので、一概に「合う、合わない」とは言えない。
バンコクは、筆者が多少タイ語が話せるので個人的には楽。
また【下手くそ現地語通用度】で述べた通り、現地人が外国人慣れしており、外国人の意志を推察できる能力が高い方が多い。
シンガポールは英語の通用度が高く、基本的な意思疎通がスムーズ。
ビエンチャンは、外国人をあまり特別視していない穏やかな現地人の気質が旅行者には優しい。

ホーチミンとヤンゴンの人々

左写真~ホーチミンのサイゴン・デルタの渡し船に乗り合わせたベトナム人たち。言葉は通じなかったが愛想は良かった!
右写真~ヤンゴンの一族経営のゲストハウスで働く子供たち。みんな恥ずかしがり屋だったが、チップをあげたら一生懸命に部屋の掃除や朝食の用意をしてくれるようになった(笑)

現地食との相性

激辛料理が少なく、野菜の多いベトナム料理は個人的にはアセアンNo.1料理。
タイ料理と同系ながら、味付けが薄いラオス料理もいい。
シンガポール料理は、中華料理系、西洋料理系とバリエーションが広いことが魅力。

ホーチミンとプノンペンの食事

左写真~ホーチミンでやみつきになった「ビーフ・シチュー・フォー」
右写真~プノンペンのオルセイ・マーケット前で買った屋台飯。鶏もも焼き、なまず焼き、焼き飯。〆て4ドル。

夜間娯楽について

夜間娯楽充実度

様々な形態の飲食系、風俗系店舗全てひっくるめての評価。
このパートにおいては、数、バリエーションともにバンコクがダントツ。
ゴーゴーバー、マッサージ・パーラー、お楽しみ有りマッサージ、ピンサロ、出会い系バー、ビアバー(嬢連れ出し可)、立ちんぼ嬢等、なんでもござれ!な盛況ぶりは、他の都市の追随を許さない独走態勢だ。
特にヤンゴン、プノンペン、ホーチミンの風俗店取り締まりが強化された為、営業規制が厳しくなったバンコクの風俗店でさえキンキラ状態が際立っている!

ところが、風俗嬢とは逞しいもの。
店舗で働けないなら個人で!とばかりに、出会い系サイトの充実ぶりが最近になって目立っている。
スマホがあれば簡単に嬢とコンタクトが取れる時代になり、特にホーチミンがスゴイ!
プノンペンやヤンゴンでもチラホラ。
アセアンの風俗形態も大きく変わりつつあるのだ。
もっともサイトで公開されている写真は、どいつもこいつもモデル級の美女がズラリで信憑性に欠ける。
運良くコンタクトがとれても値段は交渉次第。
意志疎通が図れるのかどうかも不明。
中には美人局の可能性も!
何が起こってもあくまでも自己責任であり、「会ってみなけりゃ分からない」のが現状だろう。

バンコクとプノンペンの歓楽街

左写真~ご存知バンコク「ソイ・カウボーイ」
右写真~プノンペン・リバーサイドの歓楽街(ガールズバー)

夜間娯楽代

特にホーチミンやヤンゴンの風俗業界においては、極端な二極化傾向が強い。
現地在住の外国人が対象とされた高級志向店が俄然増え始めている一方で、格安旅行者や現地人労働者を対象にした闇の置屋も神出鬼没状態。
しかし、“地球外生物嬢”とでも楽しめる度胸の据わった若者はGダイ読者にもいらっしゃるかもしれないが、この場ではとりあえず後者はオススメ出来ない(笑)
ある程度の嬢の容姿とサービス、店舗の清潔度や安全性を求めるならば、最低でも1回7~8,000円は必要と覚悟しておいて頂きたい。
風俗においても「日本の1/3での価格で~」の時代は表向きは終わっているのだ。

妖しさ

“妖しさ”というのは、現地に詳しい方に案内してもらわないと辿りつけない、中心地の賑わいから隔絶された闇の置屋のダークな雰囲気と充実度。
そこにはアセアン諸国の近代化から取り残された古臭くも懐かしい因習の匂いが漂い、その日の体調によっては妙な安らぎを感じる場所・・・。
実はこの点を「特集するように!」と、Gダイ本部からの要請もあるので、詳細は折りを見て!

ホーチミンとクアラルンプールの置屋

左写真~ホーチミン郊外。置屋が点在している、とある一画
右写真~クアラルンプールのチャイナタウンにある置屋の入口。筆者が知っている限りアセアン最安値(約2,000円)。

その他個人的嗜好

珈琲レベル

質、お味ともにホーチミンが抜群!

第7報「幻の『“偽”ジャコウネコ珈琲』を探して」

ビエンチャン、プノンペンのレベルも高い。
西洋列強国の植民地時代の珈琲文化がしっかりと残っている。
意外だったのは、ヤンゴンで珈琲文化が着実に育っていることだ。
国産ブランドの数も多い。
オススメは、有機栽培バージョンもある「Genius Coffee」。
シャン高原にて栽培されている豆であり、わざわざ珈琲農園の見学まで行ってきた!
最高級バージョンの「ブルームーンラベル」は、ベトナムの高級珈琲に匹敵するほどのハイ・クオリティ。

ジーニアスコーヒー

右写真~「Genius Coffee」の最高級珈琲豆「ブルー・ムーン・ラベル」。
左写真~「Genius Coffee」の原産地シャン高原の原生林の中にある湖「ミャーダ・ベイ」。まるでCG加工されたような異様な蒼さを誇る。地図にもいまだ表記されていない、「ブルームーン・ラベル」のイメージ・モデルになった神秘の湖。

西洋アート嗜好度

個人的に欧米の音楽、文学、絵画が好きな為に着目していたパート。
主にライブ・バンドの演奏レパートリー及び演奏センス、バービア等のBGMの選曲センス、ギャラリー展示品の欧米アートからの影響度、庶民の洋服の着こなし方(特に女性)などから判断。

生活文化の中には欧米文化が溶け込んでいるものの、アートに関しては各国、各都市は淡白。
1980年代ぐらいまでの日本人の様な、極端な欧米アート嗜好は見られない。
唯一の例外がホーチミン。
名画や有名写真の模写ギャラリーと、ロックやポップスのクラシックを選曲するバービアの多さはアセアン都市随一。
自国の音楽や絵画よりも欧米ものの方が断然クール!と人気があるのかどうかは定かではないが、アセアンに埋没しながらもひとときアセアンを忘れたい欧米人、欧米志向の日本人にとってはくつろぎやすいかもしれない。

タイも西洋音楽の需要は低くはない。
かつて「サイアム・レコード」というパンク・ロック系のレーベルが存在したほどだ。
タイのバンドはコピーもうまい。
しかし21世紀からはタイ・ポップ、Kポップの勢いに飲み込まれてしまい、現在は欧米音楽は下火状態と言えるだろう。

女性のファッションに関しては、ベトナムでは女性のボディラインをくっきりと際立たせたアオザイ姿をもっと見たいのが本音だが、肌が綺麗でスタイルの良いベトナム女性が多いだけに、洋服の着こなしも格段にクールに見える!

合計値から

筆者はかつて7年間タイで就業していた経緯があり、タイ・バンコクではそこそこの人脈と土地勘もあり、タイ語も少々。
日常生活においては何ら不自由がないだけに、合計値でバンコクが首位になることは予想通り。
2位はベトナム・ホーチミン。
これはビール、煙草、珈琲といった嗜好品が手放せない筆者固有の評価結果。

クアラルンプールとシンガポールの合計値が低い原因は、格安旅行をする身には「物価が高過ぎる(日本とほぼ同じ)」こと。
決して両都市が快適ではないと結論付けている訳ではないので、どうかご理解頂きたい。

メコン川のリバーサイド

ビエンチャン・メコン川リバーサイドの夕暮れ

最後に、筆者にとって各都市の魅力を端的に表すと下記の通り。
ベトナム・ホーチミンは、「質、種類、値段どれをとっても嗜好品天国」。
ミャンマー・ヤンゴンは、「民主化を果たした今後の成長と変化の期待度大」。
ラオス・ビエンチャンは、「現地人も旅行者もギラツイテいない、心休まる穏やかな都市」。
カンボジア・プノンペンは、「古き良きバックパッカー時代の名残りの強い希少都市」。
マレーシア・クアラルンプールは、「バンコクを凌ぐ経済成長を実感できる都市」。
シンガポールは、「完璧な都市開発を目の当たりに出来るモデル都市」。
タイ・バンコクは、「バンコクという巨大都市国家」。

これからアセアン諸国を目指す若き旅人たちよ、安全な良き旅になることを祈る!
以上。

【筆者プロフィール】
神中(ジン・アタル)19〇〇年東京都生まれのフリーライター。
「金ができたら旅、金が無くなれば仕事」をひたすら繰り返す渡世人。
旅のモットーは「旅は独り旅に限る」「酒とタバコが美味ければ何処にでも行く」。
お気に入りの都市は、ブダペスト(ハンガリー)、ハンブルク(ドイツ)、ドトスサントス(メキシコ)&バンコク。
日本とアセアン諸国でメディア編集者歴25年。
憧れの作家はイアン・フレミング(映画007シリーズの原作者)、レイモンド・チャンドラー。

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