第4報「大国外資で過去忘却の道を突き進む、カンボジア・プノンペンの逞しき喧騒(後編)」

投稿日 2017.12.19

GIA-カンボジア-プノンペン

中国資本進出の実態

老邦人の嘆き

11月下旬の某日、中国資本の威力を痛感したプノンペン取材もひと段落。
日本人旅行者が集う即席ストリートバーで馴染みの方と一杯やっていた時のこと。
一人のご老人が同席してくるなりまくしたてた。

「15年も借りていたシアヌークビルのアパートを突然追い出されたよ」
「ひと月後に全館中国人が借り上げることになったから、早いとこ出て行けだとよ!」

憤懣やるかたないご様子をなだめつつ原因を伺うと、シアヌークビルの空港や港の拡張工事を中国企業がほぼ一手に引き受けることになり、近々に中国人労働者が大量に流れ込んでくるので、キャパの大きいゲストハウスやアパートをねこそぎ猛スピードで借り上げているそうだ。

「日本人の居場所がどんどん無くなってきましたね」
その場に居合わせた全員にため息が漏れる。
「バッタンバンならまだ大丈夫。みんな来る?」と同地滞在の方が助け舟?を出す。
バッタンバンはプノンペンの北西400キロにある地方都市(田舎街)。
悪夢のポルポト政権時代にはカンボジア人民は農業従事の為に田舎へ強制移住させられたが、今度は中国人以外の外国人が強制移動させられる番なのか?!

GIA-カンボジア-ビクトリービーチ

プノンペンの南西約400キロに位置するシアヌークビル西側の「ビクトリービーチ」。現時点ではここまでは中国勢力は押し寄せてはいないらしい。当ビーチ周辺の独特のひなびた情緒を味わえるのは今のうちか。

“第四惑星”の誕生?!/ダイヤモンドアイランド

首都プノンペンにおける中国勢力は我々日本人や欧米人旅行者(滞在者)の凡庸なアンテナの届かぬ場所で巨大化している。
代表的な場所は、ダイヤモンド・アイランドとプノンペン国際空港周辺である。

ダイヤモンドアイランドは、トンレサップ川とメコン川の合流地点から出来上がっていった中洲を拡張、整備した人工の島。
ここにカナディア銀行(華僑系カンボジア企業と中国企業との合同資本)を絶対的な御金蔵として大型リゾート、高級ホテル、高級コンドミニアム、商業施設等の建設が続いているのだ。
スローガンは「未来都市」である!

全ての建築予定施設の完成率はまだ50%にも満たず、稼働率も僅かではあるが、島内に一歩足を踏み入れば、この島が近い将来東南アジア最大のリゾート・アイランドとして、その名の如く光り輝く存在となることは容易に分かるだろう。
幾何学的なまでに区画整理された広大な敷地と、超高層化/最新のハイテク機能化が明確な建築途中のビル群が醸し出す無機質なオーラは、筆者が子供時代に見た空想特撮テレビ番組に登場したロボットが人間を支配する「第四惑星」みたいだ!
情緒や人情の宿る赤い血ではなく、冷たい論理性と合理性に裏打ちされた白い血がこの島の血脈である様に映ってしまうのは、日本人としての中国勢力へのやっかみだろうか・・・。

GIA-カンボジア-ダイヤモンドアイランド

静かなる侵食作戦/プノンペン国際空港北西一帯

一方、プノンペン国際空港周辺の中国勢力について。
こちらは空港の敷地の北西を走るロシア通りを跨いで更に北西に広がる一帯である。
飛行機の離着陸の騒音もなんのその、この一帯において中国資本群が「ニュー・ビッグ・チャイナタウン計画」を着々と進行させている。
既にロシア通りに直接面した約数キロの道路沿いは、中華料理レストランやカフェ、中華系ホテル等で埋め尽くされている。

GIA-カンボジア-チャイナタウン計画

写真内中央のロシア通りを挟み、左側が中国系店舗。その裏から北西へと広がる広大な空き地でチャイナタウン計画が進行中。ロシア通り右側からは空港の敷地が広がっている。

ロシア通り沿いから一歩入ると様々な中華系商業施設、娯楽施設、中型ホテル/ゲストハウス、住宅街が北西へと広がる空き地に向けて連なり始めており、中国勢力が静かに、そして確実に“領土”をじわじわと拡大していることが分かる。
やがて大規模な工場群も建設されていき、当然その工場群の人的戦力が中国本土から派遣されてくるわけであり、その民族大移住を見越した巨大な器がこの空港周辺地域なのだ。
海外旅行者が味わう旅の最初の醍醐味は、飛行機が空港に着陸する前、海外の街の様子を空の上から眺めることだ。
しかしプノンペンでは着陸前に中華街を見下ろすことになるのかと思うと、旅情もへったくりもなくなってしまうと思うのだが。

GIA-カンボジア-ロシア通り

(左写真)建設済みで稼働を待つ工場。
(右写真)ロシア通り北西側空き地に、いち早く先行投資を行って既に稼働中の店舗や家屋。

他国資本の土地開発/文化流入の実態

バザックレーン

カンボジアへの侵略まがいの開発路線を突っ走る中国資本に対して、他国資本の動向(都市開発)も気になるところだが、こちらは視点を個人的嗜好に変えて3ヵ所ほどご紹介しておきたい。

まず現地で「バザックレーン」と呼ばれ、独立記念碑のロータリーから約300メートル南下したSt.308周辺に広がる地域にいかにも欧米人が好む隠れ家的バーが立ち並ぶ一画がある。
約100メートル四方の敷地内が路地裏空間アートのような統一感があり、欧米のモダンアート、新古典主義に精通した建築デザイナーのプロデュースを思わせるバー、カフェ、レストランが20件ほど立ち並んでいる。
新宿ゴールデン街の欧米版といった風情だ。
夜になると欧米人客でどの店も賑わいをみせており、ラーメンや餃子等の和風中華を味わえるダイニング・バー「MASAMUNE」もあり。

GIA-カンボジア-バザックレーン

パティオ・ホテル裏路地

「バザックレーン」から西へ200メートルほど移動したブロックにも、路地裏にクールな店舗がひしめく同様の一画がある。
パティオ・ホテルという中級ホテルの裏手にあたり、敷地面積は「バザックレーン」の半分程度だが、やはり欧米人好みのコジャレタ飲食店やゲストハウスが10数件軒を並べている。
内3件は日本人経営店であり、ハンバーグ/カレー専門店「919(Quick)」、西洋居酒屋「かたなし」、和食専門店「Sakana Lab」。
パティオ・ホテルがほどよい日除け効果になっており、路地裏全体がとても涼やか。
まだ日本人旅行者にはほとんど知られていない一画であり、訪れる客は欧米人が多い。

GIA-カンボジア-パティオ・ホテル裏路地

ジェット・コンテナ・ナイトマーケット

上述したダイヤモンド・アイランドへ渡る手前の更地に広がる、プノンペン最新のナイトスポット。
無数に置き並べられた船舶用荷物輸送コンテナのひとつひとつがビアバー、ショットバー、レストラン、簡易食堂、ライブ・ステージ等に改造されており、夜毎カンボジア人の若者たちで大賑わいを見せている。
重低音を効かせたディスコサウンドが鳴り響くその風情、ノリは、完全にタイ・バンコクの歓楽街!
ゴーゴーバーこそ無いが、バンコクの「パッポン」「ナナプラザ」がそのまま移動してきたようだ。
カンボジアのヤングと飲みたい、遊びたい方にはうってつけの場所。
なお当地をプロデュースしているJet’s Groupなる母体の詳細は不明だが、噂ではカンボジア華僑。

GIA-カンボジア-ジェット・コンテナ・ナイトマーケット

欧米人/日本人の夜遊びスポット現状

ゴールデン・ソリア・モール周辺 / サバイ・サバイ・ストリート

最後に、長らく中国とは無縁で栄えてきた欧米人、日本人の遊び場の現状を。
広いオープンエアーのバービアに、夜毎大勢の酔客とストリート・ガールたちが集う「ゴールデン・ソリア・モール」は現在改装中。
南側の軒先に連なる小さなバーや、周辺のガールズバーに“彼ら”は避難中。
「ソリアモール」西端の“援交ディスコ”「ポントゥーン」は営業中。
「ポントゥーン」を“ナンパ・ディスコ”と勘違いしている輩が多いが、ほぼ完全な“プロ”の女性が出入りしている。
周辺のガールズバーは営業中。
「ソリアモール」と目と鼻の先にあった“援交カフェバー”「ウォークアバウト」「ニュー・マティーニ」はともに閉鎖されているので要注意。

「ソリアモール」の南側、欧米人の資本家が約100メートルのストリート辺りを丸ごと買収したと噂される一画には「サバイ・サバイ・ストリート」なる新たなスポットがお目見えしている。
何故か名前はタイ語(「サバイ・サバイ」~気持ちいい)。
まだ建設途中のビルや更地状態が多く、僅かなバーやホテルが営業している状態だが、近い将来欧米人たちによる賑わいが予想されるモダンな風情溢れるストリートになるであろう。

また「ソリアモール」から北へ徒歩約10分の位置にあり、“性戯の達人多し”と噂の高いフランス人経営のガールズバー「セルシー」は健在。
すぐ近くに安価(休憩7ドル)の「ラブホ」があるので、毎年“嬢への御礼代”を値上げしているにもかかわらず「セルシー」利用者は後を絶たない。

GIA-カンボジア-ゴールデン・ソリア・モール-サバイ・サバイ・ストリート

(写真左)サバイ・サバイ・ストリート
(写真右上)ディスコ「ポントゥーン」
(写真右下)ガールズバー「セルシー」

リバーサイド

トンレサップ川南西側の川沿い約1キロ三方に広がっているプノンペン最大の欧米人/日本人用歓楽街は依然として健在。
川沿いから南西に向かって伸びる136stと144stに多くのバービア、ガールズバーが密集しているが、その周囲にも酔客目当ての店が点在している。
この地域のガールズバーの女性従業員の約半数は連れ出し可。(お値段と時間は要交渉)

なお、日本人経営者が常駐しているガールズ・バー「てさぐりバー」とミュージック・バー「Good Times Bar」にご注目あれ。
周辺諸国の歓楽街の中では英語の通用度が低いプノンペンにおいては、何かと有難い存在である。各店の模様は下記「スペシャル・ピックアップ」参照。
つい先日までガールズバー「Pretty Woman」にも日本人店長が常駐されていたが、現在は諸事情により不在の模様。
因みに女性陣の顔ぶれは、同業他店の中でも美人が多い(様に見えた)。

その他、夜のお楽しみが可能な店舗、地域に関しては、ページ冒頭の地図を参照して頂きたい。

GIA-カンボジア-リバーサイド

ただひたすら、光の世界へ

「ゴールデン・ソリアモール」周辺や「リバーサイド」で楽しんでいるうちは、近づいてくる中国勢力の巨大な足音に怯えることも無い。
バンコクやベトナム・ホーチミンで夜遊び慣れした輩にはプノンペンは物足りないだろうが、プノンペンならではの良さもある。
それはカンボジア・レディたちが「何だか知らないけど、メッチャ明るくて無邪気」ってことだろうか。

聞けば、ポルポト政権時代の「カンボジア暗黒の歴史」は若者たちにあまり伝承されていないという。
「早く忘れたい」「辛過ぎた過去と無縁になりたい」という年長者たちの切実な方針らしい。
だから若者たちは、都市化が加速化し、物資が増え続けるプノンペンに単純に浮かれているのかもしれない。
「過去の歴史認識なんて、冗談じゃない」
そんな精神土壌の上に成立しながら、新しく生まれ変わろうとする国や都市があってもいいのではないか、例え他国の半植民地状態になっても。
キャラや欲望丸出しで群がってくるプノンペンの“夜の蝶”たちに接していると、そんな気分になる夜もある!

以上

スペシャル・ピックアップ

てさぐりバー

GIA-カンボジア-てさぐりバー

リバーサイドでもっとも華やかな136st.とAngkor St.との交差点付近にある、プノンペン唯一の日本人マスター(経営者)常駐のガールズ・バー。
店内はソファーテーブルがセットされたラウンジバー・スタイルであり、カラオケ専用の個室もある。
「てさぐりバー」の指名数No.1はマスターの岩橋氏!
日本人の旅行者、現地視察者らが毎晩ひっきりなしに岩橋氏を訪ねてやって来ており、女の子顔負けの人気ぶり(笑)
世界/カンボジアの社会政治情勢から場末の置屋情報に至るまで岩橋氏の情報収集力はすさまじく、場合によっては、商売敵と思えるライバル店まで紹介して下さる太っ腹な人物でもある。
プノンペンの知りたい情報は、まずは岩橋氏にお任せしておけば間違いなし。

岩橋氏は日中に時間がある時は、お客さんの観光案内、視察案内も兼務されており、また初めてのお客さんに対しては、わざわざ滞在先のホテルまで迎えに行くほどの八面六臂の仕事ぶりには頭が下がる。
ド派手な看板を掲げることもなく控え目に営業されているので、訪れる方は予め電話連絡をオススメする。
Tel:081-541-720

Good Times Bar

GIA-カンボジア-Good Times Bar

2人の日本人、村上、伊藤両氏の共同経営によるミュージック・バー。
リバーサイド沿岸から徒歩約10分に位置し、ガールズバー群の代わりに、欧米人用のショットバーやレストランが立ち並ぶ一画にあり、音楽(主にロック系)好きの欧米人客でいっぱいだ。
毎週月曜日は参加自由のお客さんたちによるミュージック・セッションが開かれる。

店内奥にはダーツボードも用意されており、また希望者は麻雀も出来る!
日本人客だけでお店やお酒を楽しみたい方には不向きかもしれないが、欧米人と交流したい方には格好のバーであり、一人で訪れても両氏がスムーズに欧米人の輪の中に入れる様に便宜を図ってくれるのが嬉しい!

なお日本人両氏はともに20代半ばの若さ。最新のオシャレな遊び場スポット等もよくご存知であり、口コミが広がって日本人の若い旅行者たちがよく両氏を訪れている。

【プロフィール】
神中(ジン・アタル)19〇〇年東京都生まれのフリーライター。
「金ができたら旅、金が無くなれば仕事」をひたすら繰り返す放浪者。
旅のモットーは「旅は独り旅に限る」「酒とタバコが美味ければ何処にでも行く」。
お気に入りの都市は、ブダべスト(ハンガリー)、ハンブルク(ドイツ)、ドトスサントス(メキシコ)&バンコク。
一応日本とアセアン諸国でメディア編集者歴20年あり。
憧れの作家はイアン・フレミング(映画007シリーズの原作者)。

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