第1報「アセアン最後の大国、民主化を果たしたミャンマーの憂鬱(前編)」

投稿日 2017.10.14

皆様、お初にお目にかかります。
「G-DIARY」の新設部署「GIA」(G-Diary Intelligence Agency)情報本部・東アジア分析部東南アジア課第7班捜査官の神中(ジン・アタル)であります。

「GIA」はアセアン諸国の最新情報提供をモットーとしており、「CIA」のごとく国際情勢を裏で操作する諜報活動、スパイ工作とは無縁です(笑)

最近のアセアン各都市は、進化のスピードに驚かされるか、正体不明な静態に妙に好奇心を突つかれるか、傍目には二極化しています。
「夜の娯楽」においては、何処も当局と当事者たちとのイタチごっこを更に利用者が追いかけ回さなければならないややこしい状況です。

アジア最強のナイト・リサーチ・メディア「G-DIARY」でさえ、場所と対価変動の追跡は困難を極め、若き統括本部長ソリマチヲ氏も疲労困憊?!
ソリマチヲ本部長をどこまでサポート出来るか不透明ですが、まずはアセアン各都市の“最新の”風の音や街の匂い、人いきれの感知を調査のスタートとして、賞味期限は短いながらも鮮度は良好!な情報をご紹介していく所存です。

いまだ眠りから覚めぬ大都会ヤンゴン

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

2016年春、半世紀以上続いた軍政が幕を下ろし、アウンサン・スーチー氏を旗手として民主化を迎えたミャンマーは、古くからアジアで最も豊かで広大な土壌をもつ国として知られており、長らく先進諸国から政情の行方が注目されてきた。
民主化と共に相次ぐ外資企業の参入によって経済激動期を迎え、街は活気に満ち溢れているといったポジティブ・イメージで報道されている。
一部専門誌の類では、外資投入合戦により途上国特有の政治的な未熟さがもたらす貧富の差が早くも露呈する動乱期に入ったというネガティブな指摘もあるが、いずれにせよミャンマーは音を立てて変わり始めたというわけだ。

しかしそんなイメージのままで旧都ヤンゴンを訪れると拍子抜けするだろう。

「この静けさは何だ・・・」

ヤンゴン最大の商業区域ダウンタウンは、人と車の数は多いが所謂都会の喧騒を感じないのである。
依然として軍政下時代からの、どこか抑圧された光景が広がっているのが現状だ。

本当に民主化革命が起きたのだろうか?

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

軍政下時代よりは様々な物資の露出が増えたようではある。
最新のスマホや加熱式タバコ等も露店に並んでいるが、内需の停滞は民衆の顔に出ている。
街行く人々の表情は乏しく笑顔が少ない。
国家の自由化(民主化)はまず女性を垢ぬけさせるはずだが、ヤンゴンの女性にその兆しは希薄であり、少々原始的に見えるタナカ(頬や額に塗る日焼け止めの白粉)は相変わらず。
(それが良いとほくそえむ輩もいるが)

外国人旅行者やビジネスマンの姿もまばら。
キンマー(噛む嗜好品)で吐き出された赤い唾液が沿道にこびり付き、ゴミのポイ捨ても多く、路上カフェではロンジー姿(ミャンマーの長い腰巻)の男たちが真昼間から暇そうにお茶をしている。
歴史的な変革を遂げたにも拘わらず、ヤンゴンは都市の新しい息吹を感じさせないのである。

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

英雄スーチー氏の真意や如何に

軍政下時代に何度か訪れてはいるものの、自分は当地に大きなコネも頼りになる知人もいないので、ヤンゴンの静けさを解明する手段は、とにかく日本人在住者の生の声を拝聴する事である。
日系飲食店や日本語情報誌の事務所等を周って頭を下げ、現地日系企業や日本人コミュニティ等への僅かな伝手をこさえてから表敬訪問を繰り返すしかない。
肝っ玉は大きくはないが、この手の図々しさは身に付いている自分が、お粗末な根回しの割には門前払いを喰らわなかったのは、穏やかなミャンマーの風土、それに「GIA」の名刺のお陰か?!

まず代わり映えのしないミャンマーの現状に対しては、スーチー氏の政治家としての乏しい資質の結果と指摘する向きが非常に強かった。

「優れた活動家であっても優れた政治家ではなかった」

ということだ。

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

政府官僚の綱紀粛正を図り過ぎ、外資企業が正規登録されるまでの手続きがやたらと多くなり、事業内容によっては収益の“上納率”も相当引き上げられたという。
これでは新規参入の外資は根を張りずらい。
「ミャンマーに外資大幅参入」との報道は、実は「視察団の上陸」に過ぎなかったようだ。

タクシーの運転手が

「以前はたくさんの外国人を空港から市内まで乗せたが、最近は空港に届ける方が断然多い」

と首をひねっていたが、その仔細は視察団の相次ぐ退去だったのだ。
同時に軍政下時代から既に実績を上げてきた外資系企業も、民主化によって事業拡大が遅々として進まない開店休業状態が多いという。

止まらない負の連鎖

外資の大幅な参入無しにはミャンマーの資本家たちも動かない。
だから雇用も内需も増えない。
「何の為の民主化だったのか」と、変革当時は民衆の英雄だったスーチー氏の人気も今や陰りが見えている。
ミャンマー人の声をより多く拾う為に、宿を転々としながらその都度経営者やスタッフと接したが、今やスーチー氏は一人の与党党首扱いされているようだ。

バングラデシュとの国境付近の少数民族の暴動をミャンマー軍が武力で制圧した事件に端を発する「ロヒンギャ難民問題」
これに対してスーチー氏の消極的な態度が国際的に非難を受けたことが旅行者大幅減少を招き、スーチー氏不信任傾向に拍車をかけているようだ。
つまり人種差別問題に敏感な欧米人がミャンマーの国としての品格を疑い、旅行先として敬遠しているというのだ。
(2016年12月のビザ代大幅値上げも、外国人旅行者、就労者の減少に大きく影響しているであろうが)

更にこの度の取材に親身になって協力して下さった在住10年の某日系飲食店経営者は言う。
民衆の間にはミャンマーの国民的病が再発していると。
長かった軍政下時代に患った「何もしたくない病」だ。

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

軍政下時代には反軍政の気配のある者は秘密警察に密告されてショッピカレていた。

「午前2時に玄関がノックされたらジ・エンド」

という恐怖の不文律もあったらしい。
平和に暮らしたい者は、目立ったり自分をアピールすることは許されなかった。
そんな時代が半世紀以上も続けば、民衆は自立心が無くなり、信用できる親族だけでこじんまりと生きるしか道はない。
一向に経済成長の兆しが見えてこない中で、この「何もしたくない病」がぶり返してきたというわけだ。
自分が感じた人や街の不思議な静けさの要因はここにもあるのだろう。
民主主義国家としてのミャンマーの真の覚醒は、まだまだ先になるのかもしれない。

GIA-ミャンマー-ヤンゴン

ミャンマーの代表的祝日「タディンギットの満月のお祭り」。今年は10月5日(木)に当たり、家々ではたくさんの蝋燭が灯され、街のイルミネーションはより美しくなる。上写真は、最大級のショッピングセンター「ジャンクション・シティ」前のイルミネーション。

以上
—————————

飛び込み調査員に対しても、ミャンマー経済の現状を自分の立場から丁寧に解説して下さった方々に感謝しながら、次回は短期旅行者がヤンゴン滞在を楽しめる最新情報をレポートしよう。
ソリマチヲ本部長の要請により、食事処、ビアガーデン、ナイトクラブ(バー)、マッサージ、ショッピングセンター等、ヤンゴン初心者でもダウンタウン内で汗をかくことなく徒歩移動でナイトタイムを完結できるスポットの数々をご覧頂く予定なので、乞うご期待!

【プロフィール】
神中(ジン・アタル)19〇〇年東京都生まれのフリーライター。
「金ができたら旅、金が無くなれば仕事」をひたすら繰り返す放浪者。
旅のモットーは「旅は独り旅に限る」「酒とタバコが美味ければ何処にでも行く」。
お気に入りの都市は、ブダべスト(ハンガリー)、ハンブルク(ドイツ)、ドトスサントス(メキシコ)&バンコク。
一応日本とアセアン諸国でメディア編集者歴20年あり。憧れの作家はイアン・フレミング(映画007シリーズの原作者)。

[連載]GIA 調査報告書の最新記事

2 件のコメント

  • Toshi.I より:

    ロヒンギャ問題の記述。「パキスタン」国境ではなくバングラデシュですよね。確かに旧東パキスタンではありますが。良い記事なだけにもったいない…

    • Gダイアリー編集部 より:

      ご指摘ありがとうございます。
      確認不足でした…修正しました!

コメントを残す

コメントは承認後に公開されます。

入力内容をご確認の上、送信ボタンを押してください。

カテゴリー

企画 & 特集

アーカイブ

月別一覧

年別一覧