いもや旅情~今宵も「いもや」から旅に出よう

投稿日 2019.06.28

バンコクの日本人社会の構成も時間をかけて変わり、今では若い方も随分と増えた。 「いもや」が開店した約20年前は、駐在員さん系と旗上げさん系との色分けが明確に見えたものだが、 現在は様々なご職業、様々なお立場の老若男女の皆さんがバンコクの中で溶け合って生活をされている。

変わり続けるバンコクの日本人社会の中で、いつの時代も変わることなく支持を受けて現在に至っている「いもや」長寿の真相に迫ることがこの連載コラムの主旨ではあるが、今回は客観的事実はさておき、あくまでも私の個人的な視点、嗜好に基づいて「いもや」を紹介してみたいので、どうかお付き合い頂きたい。

いもや旅情

私は若い時分から“一人居酒屋”が出来るタイプだったので、今まで何度も「いもや」で一人酒を楽しんできた。
キープしてある「いもや焼酎」の水割りと料理2~3品が定例。
周囲はいつも団体客で賑わっているが、不思議とあまり気にならない。
女将さんが気を使って下さり、少々手が空くと声をかけて下さることも嬉しいが、 いわゆる「群衆の中の孤独」を楽しむことが出来るのだ。
“一人居酒屋”の良いところは、飲み過ぎず食べ過ぎず、適度に切り上げて家路につけることだろう。
だから飽きないし、続けていける。

「いもや」を出てバンコクの夜の熱気を浴びる時、なんだか懐かしい感覚に包まれることが多いが、最近になってその気分の正体に気が付いた。
「いもや」は旅先でふらりと立ち寄って気に入った居酒屋の雰囲気を味わえるのだ。
旅の途中だからその後いつ再訪するか分からないけれど忘れられない居酒屋、そんな個人の旅情、旅愁の世界に「いもや」は実によく似合う!

古希を越えた居酒屋探訪家・太田和彦氏は「いい年になったら、行きつけの居酒屋をもて」とコメントしている。
氏によると30代は「仕事の酒」、40代は「親交の酒」、50代は「孤独の酒」、60代は「悟達の酒」、70代は「滋味の酒」らしい。
例え今宵がどんなお酒であろうとも、いもや旅情は酒とお料理に今宵特有の風味と味わいをもたらしてくれるだろう。

いもや本店入口と、本店内右奥座敷席を飾る艶やかな色打掛

全国への旅、昭和への旅、少年時代への旅

「いもや」本店(ソイ53)の中は日本全国の旅グッズでいっぱいである。
「いもや」がバンコクに進出して来る以前、今から約四半世紀前に先代の社長と女将さんが日本全国を旅しながらコレクトしたという、夥しい数の喫茶店やレストランのマッチ、地酒のラベル、土鈴、更にお二人の故郷である青森のねぶた祭関連アイテム等が独特のセンスによって活き活きとディスプレイされており、お店の中に日本全国の風情、昭和の風情が漂っている。
一方昭和30年代の長屋住宅とその街角が再現された2号店(ソイ24)では、時代を遡る旅、失われた庶民文化の風情を味わうことが出来る。
我々オジサン世代にとっては、 それはいわば忘れかけた少年時代への旅でもある。

昭和の時代を体験した方ならご理解頂けると思うが、子供の頃、夏休みなどに田舎へ旅行する時、お約束でオレンジ色の網に入った冷凍みかんや半透明のプラケースに入ったあったかい緑茶を買って長距離列車に乗り込んだものだが、あの得も言われぬワクワク感に似たフィーリングが「いもや」で一人酒をやっていると蘇ってくるのである(笑)
本店でも2号店でも、日本人なら誰しも無意識の内に「ここではない別の場所と時間」「自分自身の軌跡」へと旅をしながらお酒とお料理を堪能しているのである!

いもや2号店入口。右写真は、昭和の列車旅行の定番冷凍ミカンとお茶のイメージ写真。「いもや」のメニューではありませんのでお間違えの無いように!

皆んな元々は旅人、お料理も旅の産物!

バンコクに定住している我々日本人、いや外国人は元々は旅人である。
世界各地の駐在の後に、新たなる夢を掴むために様々な状況を潜り抜けてきた末に、また私の様な長期放浪の果てに、過程は違えどバンコクを新天地とするべく日々を過ごしている。
「いもや」を贔屓にしている方は皆、「いもや」の醸し出すコズミックな旅情に自然と引き寄せられているに違ない。

そして只今バンコクで“人生の旅荷”を解いている我々に提供される「いもや」の料理。
これは女将さんの手作りのタレ、ソース、出汁による家庭料理路線が開店以来一貫して守られてきているが、メニューの豊富なバラエティもまた、約四半世紀前の女将さんの日本全国の旅の経験がインスピレーションになっていることだろう。
「これからももっと美味しいメニューを増やしていきたい」という女将さんの口グセは、「(日本全国で)たくさん美味しい物を食べてきた」という体験の素晴らしい裏返しでもあるに違いない!

タイ人客にとっても気軽な日本への旅

「いもや」のオープン以来の特徴のひとつは、タイ人客も非常に多いこと。
タイの有名芸能人がお忍びで訪れた場面に出くわした事も何度かある。
タイ人に対して日本入国へのビザ発給条件が大幅に緩和したことで、近年日本を訪れるタイ人は増加の一途だが、「いもや」に行けば単なる日本旅行では味わうことの出来ない日本文化の深部の一端を知ることが出来るし、何よりも「新しい物、珍しい物好き」のタイ人にとっては「いもや」の空間はダイナミック・トリップなのである。

古くはフジヤマ、ゲイシャ、サムライ(ハラキリ)、最近ではアキハバラ、AKB48、オタク!?などが外国人から日本のシンボルの様に思われているが、「いもや」によって日本への興味が深まってから日本に旅行したタイ人の中から、日タイ友好の新たなる架け橋となる方が登場してくれたら、これもまた「いもや」ファンとしては嬉しい限りである。

旅する居酒屋

「いもや」自体もこの20年間、タイ各地の旅(チェーン店展開)を続けてきた。
本丸であるバンコクの2店舗の経営を強固にしながら、プラチンブリー県の304工業団地、シーラチャー、レムチャバン、チェンマイにチェーン店をオープン。
私はほとんどのチェーン店の開店をこの目で見届け、どの地でも「いもや旅情」は大好評であり、現地で働く日本人とタイ人両者のハートをガッチリと掴んでいる現場を目の当たりにしてきた。
経営権が先代の社長から女将さんの手に移ってからはチェーン店の一部は関係者に譲渡されており、女将さんはまるで20年前の原点に回帰するような真っ白な姿勢で再びバンコクの2店舗に心血を注いでる。
旅する居酒屋「いもや」がタイ各地で積み重ねてきた歴史が、これからバンコクの2店舗にどんな旅情をもたらしてくれるのか、女将さんのアイディアと手作りによる新メニューの登場とともに楽しみである。

旅は遭遇する些細な出来事に独特のスパイスを与え、旅人を覚醒させてくれるものだ。
必ずしも有名な観光地に行かなくてもいいし、郷土料理を食べなくてもいい。
非日常の空間に身を置くことで忘れかけていた当たり前の喜怒哀楽が蘇るから、人は旅に魅了されるのだ。

「旅とは、一冊の本の様なものだ。それを1ページも読まないことは、自分の人生をつまらないものにしているようなものだ」(byゲーテ)
今宵も「いもや」を訪れるお客さんは、豊かな時を求めて「いもや」で新しい旅の1ページを開くのである!

「居酒屋いもや・インフォメーション」

【いもや本店】
■アドレス 1F Sachayan Mansion, 42/3 Soi Sukhumvit 53
■アクセス BTSトンロー駅から徒歩6分(駐車場あり)
■電話番号 02-279-0473
■営業時間 月-金 18:00-1:00 (L.O.0:15), 土日祝 17:00-0:00 (L.O.23:15)

【いもや2号店】
■アドレス 3F Terminal Shop Cabin Mansion, 2/17-19 Sukhumvit 24
■アクセス BTSプロンポン駅から徒歩2分
■電話番号 02-258-4955
■営業時間 月-金 18:00-1:00 (L.O.0:15), 土日祝 17:00-0:00 (L.O.23:15)

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