日タイ往復240回!「居酒屋いもや」だけが実践してきた“遠距離恋愛的”居酒屋活性術!!

投稿日 2019.05.11

今やバンコクの日本人在住者は推定10万人、日本料理店の軒数は約3,000店と言われている。
筆者が初めてバンコクで仕事を始めた1999年当時が、日本人推定数万人、日本料理店約1,500店だったので、この20年間で在住者数も日本料理店数も倍に膨れ上がっている。

試しに東京都の日本料理店の軒数をネットで調べてみたら総数は8,325軒。
人口が13,000,000人超なので、人口10万人あたり「62.17軒」という数字が発表されていた。(「都道府県別統計とランキングで見る県民性」調査~2014年版)
東京とバンコクとを単純には比較できないが、同じ「日本人10万人」という枠でとらえてみると東京「62.17軒」、バンコク「3,000軒」!
バンコクの日本料理店の軒数がいかに尋常ではないことがお分かり頂けるだろう。

こんなバンコク日本料理店過当競争(狂騒!)状態の中で、長期にわたって経営を維持出来るのは奇跡に近い!
しかし「奇跡」のひと言で結論づけてしまうのは経営者様に失礼極まりない。
そこで今回は無謀を承知で(笑)、本年11月に本店の開店20周年を迎える「居酒屋いもや」の奇跡の真相に迫ってみることにした!

「いもや20年」は、女将さんとお客さんたちとの“純愛”の歴史

筆者は1999年の開店当時から「居酒屋いもや」にはお世話になっているので、先代の社長さんと現在お店を切り盛りしている女将さんから、事あるごとにある程度の内部事情を聞かせて頂いてきた。
本店及び2号店の開店(2000年)にも立ち会わせて頂いた。
少々早いが、「開店20年」を迎えるにあたって先代の社長、女将さんお二人のお話を振り返ってみると、他の長寿店様と比べて(自分が知りうる限り)「いもや」だけが20年間欠かさず実践し続けている事がある。
それは女将さんの、少なくとも毎月1回は日本とタイとを往復されているという信じ難い軽快なフットワークだ。
日本には一週間から10日滞在してバンコクに戻るという生活サイクルを、1年に12回、20年間で実に240回も繰り返していらっしゃるのだ!
この20年の間には、ご自身の体調不良、日本のご家族の事情、バンコクの店舗の不都合等色々な状況もおありだっただろうが、それでも毎月の日タイ往復を絶対に欠かさないハードスケジュールを20年間続けてこられたのである。
更に女将さんは帰国直前、またタイ帰還直後もしっかりと現場に立ち続けていることもスゴイ!

「いもや本店」(スクンビット53)。BTSトンロー駅から徒歩6分。入口前には駐車場も完備。入店すると豪華な「ねぶた」の版画が出迎えてくれる。

240回の日タイ往復、その都度女将さんは日本で適正価格による新鮮なネタを仕入れて自らの手でバンコクまで運び続けている。
また仕入れ時間の合間には日本のご家族やご友人との交流も欠かさず、街中でのショッピングなども楽しんでおられるご様子だ。
日本のネタだけではなくて、女将さんが日本の空気や流行をもその身に纏ってバンコクまで運び続けていることが、「いもや」がバンコクという一種独特な“ゆるさ”に浸食されることなく、日本の文化の香りを失わない秘訣ではないだろうか!
かつてバンコクには日本の食材等の仕入れと運搬の為に日タイの往復を繰り返す「運び屋」と呼ばれるフリーランサーが数多く存在し、今では運び屋に代わってエアカーゴによって新鮮な食材が大量にバンコクに運ばれてくる時代になった。
しかし女将さんは運び屋やエアカーゴに一切頼ることなく、自分の身を粉にして日本の食材と時代の空気をバンコクのお客さんへ届けている。
これはもはや遠距離恋愛、女将さんと「いもや」を愛するお客さんとの“純愛”の図式である!

「いもや2号店」(スクンビット24)。BTSプロンポン駅から徒歩2分ターミナルビル3階。店内は昭和レトロなインテリアで統一されている。

過当競争エリアなだけに、盛者必衰のサイクルが早いバンコクの日本料理店業界。
例え一時期盛況であっても店じまいしてしまうお店に対して、我々利用者側の分析は大概は同じだ。
「流行り出したら店をタイ人に任せてしまったから味が変わり、店主もあまり店に顔を出さなくなったよな」
「日本料理店なのに、年々店の中の雰囲気がタイっぽくなっていったな(日本ではなくなってしまった)」
「店主も段々とタイ人化していったからなあ」
あくまでも利用者側からの無責任な言い方に過ぎないが、「バンコクの中で和食を通して日本を維持する」という難儀の遂行に対する店側の緊張感が段々と薄れていってしまったという理屈だ。
日夜タイの風習の中で生活し、タイ人とも上手に付き合っていくことを強いられるだけに、日本料理店という業界に限らず、長期間バンコクで働く者にとって「タイ人化回避」は誠に難しい。

しかしお客様の主流が日本人である以上、お店側の「タイ人化/タイ化」はあってはならないのではないだろうか。
得てして“タイ人化した日本人”こそ、日本料理店では「純然たる日本」を求めがちであり、タイの日常性に埋没しかかっている日本人にとっては「あ~やっぱり俺は日本人なんだ」と思わせてくれることが日本料理店の最高のご馳走なのだ。
タイ化/タイ人化していない純和風の「いもや」と女将さんの存在自体が、お客さんにとってはこの上ないオアシスなのである。

「何事も人任せにしない」
「タイ人にも理解された日本式接客術」

以前のコラムでも強調したが、「いもや」の変わらぬご盛況の要因は、常に一定しているお味である。
豊富なメニューを誇る「いもや」だが、家庭料理が多いことが人気の的であり、晩酌目的で一人でもふらりと立ち寄りやすい。
立ち寄り易さの信用状は何よりも「安定した家庭料理のお味」である。

素材の種類を別とすれば、日本料理とタイ料理の決定的な違いはタレ、調味料の使用量。
素材の旨味を引き出すことを料理の第一条件とする日本料理は、タレ、調味料の使用量はタイ料理よりもはるかに少ないが、だからこそそのクオリティが求められる。
また家庭料理は種類が豊富であってこそお客さんを惹きつけるので、料理の種類に応じてタレ、調味料の様々なパターンも必要だ。
その必要不可欠な隠し味としてのタレや調味料は「いもや」は全て女将さんの手作りである。


お金を出せば日本の製品は何でも入手出来るバンコクだが、女将さんは既製品を極力使用せず、ご自身の経験と味覚を頼りに自家製のタレを作り続けており、これが「いもや」の安定したお味に直結しているのである。
タイ人化していない女将さんの味覚が元になっているのでいつ訪れても何を食しても安心だ。
“日本直送素材は自らの手で”、そして“タレは自家製”の「いもやポリシー」は、また料理の提供価格の上昇をギリギリまで抑える遠因にもなっているのであろう。
「い」=いいものを
「も」=もっとおいしく
「や」=やすく
のスピリットは、女将さんの長年の地味な努力によって具現化され続けているのだ!

余談ながら、女将さんはご自身の夕食は毎晩店内でオーダーしている。
タレの味と仕入れた食材の調理状態のチェックの為の欠かせない仕事として、自らの夕食を位置づけているのである。
自分の仕事に最後まで責任をもつとはまさにこの事!

さらに「いもや」で20年間変わらない代表例が従業員の接客姿勢。
元気な声による「いらっしゃいませ」「〇名様入ります」「ありがとうございました」の“飲食店声出し接客三原則”が今も徹底されている。
バンコクの日本料理店がタイ化していく第一歩は、案外この三原則がいい加減になることなのだ。
この点がブレルことなく徹底されているのも「いもや」の特徴だ。

またボトルを入れた際の「〇〇ボトル1本入りました」の声出しも然りであり、この掛け声によって、グラス、氷、水等のボトル・セット担当のスタッフにオーダーが伝わって素早く用意されるのだ。
「いもや」の素早く、スムーズな接客術、統制されたチームワークを物語っているといえよう!

従業員たちが一ヶ所に固まらず、いつもそれぞれの持ち場に配置されている接客体制も変わらない。
タイの飲食店において、お店が盛況な時間帯に入店/着席してもしばらく従業員たちが誰も気が付いてくれないという体験がよくあり、我々も「ここはタイだからな」と半ば諦めて怒りもしないが、そうした入口からの“いきなり不手際”は「いもや」では絶対にあり得ないことである。
“声出し接客”や“自分の持ち場担当”といった現場方針は日本では当たり前なのかもしれないが、タイ人従業員に徹底させるのは結構難しいと聞く。
原因についてはここでは“タイ人気質による”とだけ述べておくが、その難しい従業員教育もまた「いもや」では20年間変わることなく継続されてきたのである。
信賞必罰方式など、色々とやり方はあるのだろうが、まずは女将さんが仕入れや仕込みから接客まで、毎日陣頭指揮を執っているからこそ従業員たちを統制出来るのであろう。
タイ人社会の中に「〇〇の背中を見て育つ」という考え方があるのかどうかは不明だが、20年継続という歴とした経営実績と女将さんの毎日の変わらぬご奮闘によってタイ人従業員たちにも日本式接客術が理解されていると言えるだろう。
まさに「継続は力なり」である。

本年で「本店」が20年周年、「2号店」が19年周年を迎える「居酒屋いもや」。
記念すべき年を迎えても、女将さんは粛々として開店以来のポリシー守り、“自分の仕事”を確実にこなしていかれるであろう。
たくさんのお客さんから20周年をあらためて祝って頂くよりも、毎日毎日お客さんに喜んで頂けることが「居酒屋いもや」にとっては何よりも有難いことに違いない!

「居酒屋いもや・インフォメーション」

【いもや本店】

■店舗紹介コラム
■アドレス 1F Sachayan Mansion, 42/3 Soi Sukhumvit 53
■アクセス BTSトンロー駅から徒歩6分
■電話番号 02-279-0473
■営業時間 月-金 18:00-1:00 (L.O.0:15), 土日祝 17:00-0:00 (L.O.23:15)

【いもや2号店】

■店舗紹介コラム
■アドレス 3F Terminal Shop Cabin Mansion, 2/17-19 Sukhumvit 24
■アクセス BTSプロンポン駅から徒歩2分
■電話番号 02-258-4955
■営業時間 月-金 18:00-1:00 (L.O.0:15), 土日祝 17:00-0:00 (L.O.23:15)

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