バンコク初の昭和レトロな居酒屋「いもや24」~過去と未来のジャパニーズ・エナジーが優しく溶け合う酒処

投稿日 2019.02.18

昨年11月末に『トンローとバンコク在住者の変化を見守りつつ、不変の味を守る居酒屋』として、スクンビット・ソイ53で創業19年を迎えた居酒屋「いもや」本店をご紹介した。
今回はスクンビット24、エンポリアム横のターミナルビルにある2号店(以降は「いもや24」表記)にご注目頂きたい。
こちらは本店の経営が軌道に乗った1年後にオープンされており、本年中に営業18年を迎えるバンコク居酒屋業界の老舗店である。
料理のメニューは「53」と同じであるが、立地と店内インテリアの違いもあって、本店とは別の魅力によって長らくバンコクで働く日本人の舌と胃袋を満たしてきた「いもや24」の固有の魅力に迫ってみたい。

日本でも稀だった昭和レトロ・スタイル

自分の家に帰って来た安堵感、または自分だけの“隠れ家”に身を潜めている優越感!?に浸りながら飲食出来る本店に対して、「いもや24」の魅力は異次元にあると言える。
スクンビット・ソイ24は、ご存じの通り外国人用居住区、商業/歓楽地帯のど真ん中であり、多種多彩な人間のエネルギーが日夜炸裂し続けているストリートだ。
この地域で居酒屋を営むのであれば、競合店を意識する以前に、ストリートを行き交う者たちの放つ巨大なエネルギーに吹き飛ばされることなく、彼らに素通されないだけの強烈なアイディアが必要だろう。
「居酒屋いもや」が約18年前にスクンビット24に対して叩きつけてみせたアイディアとは、本格的な「昭和レトロな居酒屋」というバンコクの日本食業界初の斬新なインテリアだった。
この「昭和レトロ」というアイディアだが、当時は日本でもその概念すらほとんど存在していなかった。
アメリカの建築業界で流行していた「新古典主義」に倣い、日本では21世紀になってからちらほらと芽を吹き始めたインテリア・スタイルと記憶している。
日本の飲食業界までひっくるめて、「いもや24」は「昭和レトロ」を実現してみせた先駆者的居酒屋だったのである。

18年前のオープン(前)秘話!?~店舗そのものも手作り!

実は筆者は18年前のオープンを見届けているのだが、お店が完成した時の衝撃を今も忘れることが出来ない!
そのアイディアの素晴らしさは元より、言葉もセンスも職業意識も全く異なるタイ人の大工さんたちを使って「よくぞここまで完璧に昭和を再現したものだ!」と畏怖の念すら覚えたものだ。
建築途中の現場に何度かお邪魔したが、先代の社長が作業現場管理の為に毎日現場へ出掛け、現場の掃除をしながら自らのアイディアの具現化へ向けてタイ人大工さんたちに細かい指示を出していた。
タイ人大工さんたちは明らかに先代社長の熱い陣頭指揮に圧倒されてテキパキと作業!
先代社長の“笑顔と真顔”、“アメとムチ”のさじ加減は卓越しており、タイ人と一緒に仕事をする日本人としての心構えを筆者に学ばせるに充分過ぎる光景であった。

店内は昭和の看板、ポスター、タバコ、お菓子、その他様々な小道具でいっぱいであり、
これ等は全て先代社長のコレクションだとばかり思っていたが、一部は実物ではなくて先代社長の手作りによる複製品である。
実際に自分の目で映画のポスター描きやタバコの空き箱作りの実演をこの目で拝見した!
まさに店内インテリアの隅々にまで先代社長の拘りが染み込んでいる。

一方お料理の方は本店の記事の方でご紹介した通り、女将さんの真心とアイディアがこもった手作り&創作料理!
本店と同様にこちらもタイ人の板前さんへの女将さんの厳しいチェックの目が光っている。
メニューは両店共通であり、当然そのお味は同じなのに本店と「24」では“満足感の種類”がちょっと違う!
本店ではお客さんが「ふぅ~」とひと息吐いてリラックス出来るお味。
「24」では「よしっ」と息を呑んでから活力がわいてくるようなお味。
これは両店別個の店舗マジックの成せる業!
マジックの正体を知りたい方は、この後も続けて読んでい頂きたい!

“いざなぎ景気”と“いざなみ景気”のスピリットがクロスする処!

座敷席とテーブル席を隔てる板塀と電信柱を模した支柱も昭和の情緒たっぷり。板塀や柱の落書きはお客さんによるもの。もちろん落書き無料!

「いもや24」の店内インテリアのコンセプトは、昭和30~40年代の日本では当たり前だった「下駄ばき長屋」と街角の光景。当時の日本は高度経済成長期、「いざなぎ景気」と呼ばれた大好景気時代を迎えようとしていたとはいえ、過半数の日本人は戦後焼け野原になってしまった日本の復興を心から願いながら一生懸命に仕事をしていた。
そんな時代を生きた日本人たちの安らぎの場が「いもや24」で再現されている。

「いもや24」がオープンした18年前とは、2001年の平成12年。
今あらためて考えてみると、当時の日本は「いざなぎ景気」ほどではないものの、急激な円高も影響した「いざなみ景気」の時代であり、更に1997年の東アジア大通貨危機の黒い波をまともに喰らったタイ国をあたかも救うがごとく、日本企業、日本人が続々とタイ国に上陸してきた時期だった。
「いもや24」は「いざなぎ景気時代」を生き抜いてきた先代社長と女将さんが、これから「いざなみ景気時代」を異国で生きていこうとする日本人の「ひととき羽を休める場所」としてスタートさせたのである。
またインターネットの普及によって劇的に変わりつつあった時代性と妖艶なバンコクの魅力に浮かれることなく、かつて「いざなぎ景気」を実現させた日本人の先天的な仕事に対する誠実さを忘れることなくバンコクで働いて頂きたいという、先代社長と女将さんの願いが「いもや24」の経営スピリットなのだ!

お客さんが引き始める午後11時過ぎの「24」の店内は、ほろ酔い気分でいると夜鳴き蕎麦のチャルメラの音が聞こえて来る様だ。
「夜鳴き蕎麦」とは、昭和40年代頃まで実在した夜遅くに現れる屋台のラーメン屋さん。
その語源は「夜鷹蕎麦」とも言われており、昭和初期の繁華街の夜半に出没した“春をひさぐ”女性たち(夜鷹)に好まれたことからその名が付けられたという説がある。
21世紀を迎えて尚、夜鷹が舞うバンコクにおいて日本の夜鷹(夜鳴き)蕎麦的情緒を再現した「いもや24」。
単なる懐古趣味を超越した、過去のエネルギーが現代を生きる為のエネルギーに転換された「新レトロ主義」に彩られた居酒屋である!

赤ちょうちんであり一杯飲み屋であり、縄暖簾であり小料理屋であり

既に前コラムでご紹介通り、本店は閑静な住宅街の中にあり、、店内インテリアは先代社長と女将さんの地元青森のねぶた祭関連のアイテムと、お二人が日本中を旅した時に入手した“お土産品”の数々が演出するアットホームな温もりに包まれた、いわば家飲み気分、寝酒気分で楽しめる雰囲気。
駐車場も完備されているので、ドライバーさんさえ確保出来ていれば、ホントに心行くまでくつろいで飲食出来る。

一方「いもや24」は、昭和時代の都会の大通りから路地を入って「ひと休み」出来た飲み屋の風情が魅力だ。
また一日の仕事が終わってもなかなか仕事モードをシャットダウン出来ない生真面目な仕事人が、街の喧噪の残響を感じながらマイペースで一人の人間に戻っていくことの出来る「赤ちょうちん」の様な空間であり、群衆の中の孤独が心地よいと感じる男の憩いの場所とも言えるだろう。
喫茶店の様に気軽に立ち寄れる雰囲気もあるので、気の合った仲間同士で「“ちょっとだけ”いくか!」にも最適デス。

取材の後にオーダーしたお料理一例。ちなみに左写真のおでんは通常メニューにはなく、良い具材が入手出来た時のみ女将さんが作って下さる。常連になれば、こんな女将さんの心遣いも受けることができる。

バンコク、それはタイ国の首都というよりもシンガポールの様な独立した都市国家と言った方が相応しい。
気候、風土、地元民、料理、そして昼も夜も全てが暑くて熱いバンコクは世界中の旅行者が絶えることがなく、世界中の人々がこの地で生活を営んでいる。
ここに来れば何でもあり、人の心以外はお金で何でも買える。
そんなバンコクの生活において不可欠な時間とは、ひとときバンコクを忘れるための「クールダウン・タイム」。
自分自身のアイデンティティを見失わないことがバンコク・ライフの生命線であると思う。
「都会の隠れ家のいもや本店」か、「喧騒の中のリラックス・ポケットのいもや24」か。
バンコク生活に疲れた時をいずれかで過ごせば、この地における己の貫くべき姿勢と正すべき姿勢とがかすかに見えてくるはずだ!

先代の社長から女将さんの手へ経営実権が変わって、おつまみやお料理のバリエーションが増えたこともあり、元来の赤ちょうちん的大衆酒場スタイルに、縄暖簾(一膳飯屋)や小料理屋さんや大衆割烹の風情も加わってきた「いもや24」。
本店とともにこれらからも末永くバンコクの日本人の食生活を支えていって頂きたいものである。

「いもや24」のお座敷席。大、中、小部屋タイプがあり、衝立を外してテーブルをくっ付ければ団体様もOK!  数人から40~50人規模の宴会も可能だ。

いもや24(2号店) (Imoya) 店舗情報

いもや本店 (Imoya)
■アドレス 3F Terminal Shop Cabin Mansion, 2/17-19 Sukhumvit 24
■アクセス BTSプロンポン駅から徒歩2分
■電話番号 02-258-4955
■営業時間 月-金 18:00-1:00 (L.O.0:15), 土日祝 17:00-0:00 (L.O.23:15)

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